route 1


2000年2月28日。
無謀にも名古屋・東京間を原付で駆け抜けた男がいた。
テントと地図を背中に積み、冬真っ只中の国道1号線を愛車YB−1が爆走する!

6th run 3月4日(金)前編 東京〜箱根 142.8km

 いよいよ東京を発つ朝、目覚ましより15分遅れて7時45分に起床した。もちろんサイキックはまだ起きていない。昨夜のうちにしきれなかったパッキングを済ませる。念のため昨夜買っておいた非常食用のカップラーメンをザックに詰め込むと、彼を起こさないようにそっと外へ出た。
 空を見上げると、昨日の天気予報が外れていないことを示すように、どんよりとした雲が一面に広がっている。階下に停まっている、片道約400kmの道のりを運んでくれたYB−1の荷台にリュックを縛り付けた。スターターをキックすると、まるでふたたび始まる帰路の旅に気合いを入れるかのように、機嫌よく大きな音を立ててエンジンが回転しだした。起床から30分、波乱に富んだ帰路の初日が始まった!

 ……しかしいきなりトラブル発生!
 桜田門あたりで東京周辺のロードマップを紛失して以来、神田で買った東京区分地図を使っているのだが、この地図、東京都以外の近郊都市は中心部しか載っていないのだ。つまり川崎市中心部から横浜市中心部の地図を見比べると、距離にして約5kmくらいのブランクな部分があるのである。
 たかが5kmとは思ったが、さすがオレ。しっかりと道に迷いまくってしまった。
 なんとかどこをどう通ったかもわからず新横浜駅前まではたどり着いたのだが、さっぱり方向感覚を失っていまい、そこからどの方向に行けばいいのか全く不明。とりあえず勘だけを頼りに突き進む。いろいろ標識を見ながらなんとなく右折左折を繰り返す。と、道が広くなり、大きな駅が見えてきた! お、横浜か? と思いきや、なんと着いたのは先ほどまでいた新横浜。おのれ、と今度は違う方向に進んでみる。やはり勘を頼りにずんずん進むと、ようやく見たような景色に出る。よし、行きに通った道だな、と確信するが、その道を進むとなぜか現れたのはまたもや新横浜。富士の樹海に匹敵しそうな迷宮都市である。う、泣きそうになってきた……

Yokohama Bay-Bridge !

 そんなこんなを繰り返し、どうにか地図に載っている場所までたどり着くことができた。1時間近くはぐるぐるしたいたんじゃないかな。気を取り直し、とりあえず向かったのは、行きに見られなかった横浜ベイブリッジ! 通行料がいくら取られるかは知らないが、YB−1でベイブリッジを突っ走る姿を想像すると、俄然やる気が出てくる。横浜港目指して南へ南へと下った。
 さすがに港周辺はごちゃごちゃしていて、一方通行や行き止まりが多発している。なんとか看板だけを頼りに進んで1時間半ほど走ったのち、とうとう憧れのベイブリッジに到着した!
 しかし、なんということだ。どうやらこの大橋、50ccの通行は認められないらしいのだ。せっかくここまで来たのに! と仕方が無いので写真をパチリ。がっくりとうなだれるオレの頭上に、パラパラと小さな雨のしずくが降り注ぎ始めた。

 そうなのだ。
 生来きっての自他共に認める雨男のオレ。
 今まで少しも降らなかったのがむしろ不思議というもの。
 やっぱり、雨の奴は一番おいしいところで降ってきたわけだ……

 横浜中心部の地図と静岡のロードマップの間には10kmくらいのブランク部分があるが、さすがのオレも1号線をまっすぐ進む道は迷うこともなく、小雨のぱらつく中、藤沢、平塚と順調に進む。しかし天候はぜんぜん順調じゃなかった。みるみる粒が大きくなり、量も激しくなる。ついに耐え切れなくなり、着ていたダウンコートを脱いで雨具を装備した。ダウンの上からじゃ雨具は着れないからねぇ。後ろの荷物にもザックカバーを被せれば雨対策は一応完璧。ただしコートがカッパになる分、寒さはいっそうこたえるけど。ダウンコートは後ろの荷物に適当に縛り付けておいた。
 そう、適当に……

 小田原(お城は今回も雨で断念)のガストで昼食を取り、雨の中をひたすらひたすら爆走する。バイク乗りにとって、天候の良し悪しはテンションにモロに響くのだ。本来なら冬の終わりの大雨の中、カッパ着てバイクに長時間乗るなんて正気ではない。いますぐ暖房の効いた部屋の布団の中に飛び込みたい衝動に駆られ、なぜこんなことをしているのか疑問すら覚える。
 しかし、進むしかないのだ。走らないことには帰れないから。

Ashi-Lake

 再び箱根の峠を通り、道の駅「箱根」に着く頃には、気分は全く最悪になっていた。雨具もバイク用ではないので、とっくに撥水性を失って内側に水を浸透させているし、手袋も同様だ。そもそも時速5、60kmで水滴がぶつかってくるのだ。相当耐水圧な加工がしてなければ、しみこんでくるのも当然だろう。両手は寒さと冷たさで凍りつき、ブレーキやクラッチレバーを握るのも困難になってきている。
 道の駅からは芦ノ湖が悠然と広がるさまが見渡せたが、疲れきった身体にあまり感動は覚えなかった。
 暖かい室内で団子を一串ほおばり、熱いお茶をすする。そんな行為は気休めにしか過ぎない。でもそうでもしないと、この状況に再び身を投じる気にはとてもなれなかった。

Winter Rain...

 あれほど順調に進んできた旅の行程が、ここへきていま最大の難関を迎えていたのだった……


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